イタリア人の冤罪事件をめぐって
昭和40年代後半の話である。中学生になり、背伸びをして児童向けの世界文学全集から卒業しようと思ったとき、書店で私が最初に手を伸ばしたのは、あの頃、新しい海外文学の紹介で一番輝いていた角川文庫の数々だった。イタリア文学に魅了されるきっかけとなった、『無関心な人々』や『軽蔑』など、モラヴィアの主要作と出会ったのも、角川文庫のおかげである。だが、とりわけ衝撃的な内容で、大人の世界の「恐ろしさ」を思い知らされた2冊として今も忘れられないのが、『ローマの休日』の本当の脚本家として知られるドルトン・トランボの『ジョニーは戦場に行った』と、ハワード・ファストの『死刑台のメロディ:サッコとバンゼッティの受難』だった。第一次世界大戦に出征して、五感も手足も失って帰国する青年ジョーのその後を描いた、強烈な反戦小説『ジョニーは戦場に行った』にも戦慄したが、アメリカ史に残る最大の冤罪実話ということでは、1927年に強盗殺人事件の主犯として電気椅子で処刑された二人のイタリア移民ニコラ・サッコとバルトロメオ・ヴァンゼッティの人生の悲惨さは、まさに悪夢の一言に尽きるものだった。(https://ja.wikipedia.org/wiki/サッコ・ヴァンゼッティ事件)
イタリア国内での冤罪事件でいえば、第二次大戦後の1954年にシチリアの小村で起きた有名な『アーヴォラ事件』をもとにしたPaolo di Stefanoのノンフィクション・ノベル"Giallo d'Avola"が、2013年度のヴィアレッジョ賞を受賞している。
ある日、パオロ・ガッロという名の農夫が血痕と帽子を残して行方不明となるが、その殺害者として、仲の悪いパオロの弟サルヴァトーレとその息子セバスティアーノが逮捕される。二人は無実を主張するが、結局、父親には無期懲役、息子には懲役14年の判決(再審では懲役16か月に減刑)が下される。その後、弁護士や記者の独自調査により真相が明らかになるのだが、それは意外なものだった。何者か(誰だったのかは不明)に殴られ、怪我をしたパオロは、弟や口やかましい妻との生活から逃れるために、身元を隠してひそかに別の人生を生きていたのだ。
そうした冤罪問題とも深く関わる日本の死刑制度を考える国際シンポジウムが、10月22日(木)と24日(土)、東京で催される。入場は無料、同時通訳も入る。詳細はhttp://santegidio.jpで。