2015年5月5日火曜日

詩人をみちびく、猫の瞳



 今年のイタリア映画祭の目玉の一つ『レオパルディ』(原題はIl giovane favoloso、「すばらしい若者」)は、中部イタリア、マルケ州の小都市レカナーティの貴族の家に生まれた夭折の天才詩人、ジャコモ・レオパルディ(1798年~1837年)の伝記映画。監督は『われわれは信じていた』のマリオ・マルトーネ。
 モノローグのように朗読される美しい詩の数々もさることながら、とりわけ忘れがたいのが、病み衰えてゆくレオパルディ(エリオ・ジェルマーノの演技のすばらしさ!)のナポリでの生活のなかで、彼を終生支え続けた親友ラニエリの心優しい妹との心の交流である。
  二人の浄らかな魂の触れ合いが描かれる場面で、レオパルディが朗読する愛らしいソネットの作者は、意外にも、超巨編叙事詩『解放されたエルサレム』で知られる、イタリア・ルネサンスを代表する大詩人トルクァート・タッソー(1544年~1595年)。
 「聖アンナ病院の猫に」と題されたこのソネットをタッソーが作ったのは、心を病んだ詩人が7年にもわたって囚人のように暮らした、フェラーラの聖アンナ病院の中だった。
 猫をこよなく愛した詩人のボードレールは、この神秘的生き物を「孤独の底に横たわるスフィンクス」と讃えたが、タッソーは猫の輝く二つの瞳を、嵐の中でも船乗りをみちびく星の光に見立てる。そして、神の寵愛を受けた生き物である猫に向かって、船乗り同様、自分が詩を書くときにも導きの光となって照らしてほしいと呼びかけるのである。

Come nell’Ocean, s’oscura e ‘nfesta,
procella il rende torbido, e sonante,
alle stelle, onde il polo è fiammeggiante,
stanco nocchier di notte alza la testa;
così io mi volgo, o bella gatta, in questa
fortuna avversa alle tue luci sante,
e mi sembra due stelle aver davante,
che tramontana sia nella tempesta.
Veggio un’altra gattina, e veder parmi
l’Orsa maggior colla minore: o gatte,
lucerne del mio studio, o gatte amate,
se Dio vi guardi dalle bastonate,
se ‘l Ciel vi pasca di carme e di latte,
fatemi luce a scriver questi carmi.

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