世界のオークションの高額落札美術品ランキング、その2014年ベスト10に名を連ねるアーチストを挙げてみる。アンディ・ウォーホル(『トリプル・エルビス』約98億円、『フォー・マロンズ』約83億円)、フランシス・ベーコン(同じく2点)、サイ・トゥオンブリー(『無題』約83億円)、マーク・ロスコ、エドゥアール・マネ、アルベルト・ジャコメッティ、バーネット・ニューマン。
ここで「サイ・トゥオンブリーって誰?」と思われた方にぜひ足を運んでいただきたいのが、5月23日(土)から8月30日(日)まで、東京品川の原美術館で開催されている日本初の個展。
高松宮殿下記念世界文化賞(1996年)やヴェネツィア・ビエンナーレ金獅子賞(2001年)を受賞したときも、2011年に亡くなったときでさえも、日本での関心は今ひとつだっただけに、長年のファンにとっては、ようやくここまで、との思いが深い。
アメリカ、ヴァージニア州で生まれ、後半生をローマで暮らしたサイ・トゥオンブリー(Cy Twombly, 1928年~2011年)は、抽象表現主義の流れを汲む、20世紀美術界で最も重要なアーチストの一人…ではあるのだが……拙宅に飾った彼の複製画に対する家族・知人らの反応を見るかぎり、「私でも書ける」、「子供の悪戯書き」、「トイレの落書き」といった評価以上のものが返ってきたためしがない。実際、トゥオンブリー自身、そうした世間の反応に対して、「私が描く線はたしかに子供のようだが(childlike)、子供っぽくはない(childish)。子供の線を描き出すのに必要なあのクオリティーを身につけるのは至難の業だ。それは感じ取るべきものだから」と答えている。
トゥオンブリーが最初にイタリアを訪れたのは、ラウシェンバーグと共に世界各地を旅した1952年のこと。1959年にはタティアナ・フランケッティと結婚。1960年、イタリアに移住し、2011年に83歳で亡くなるまでローマを生活の拠点とした。
ちなみにタティアナの祖父、ジョルジョ・フランケッティ男爵は、私財を投じてヴェネツィアのカ・ドーロの修復を行うなど(現在もカ・ドーロ内にフランケッティ美術館として名を残す)、20世紀イタリアの文化財保護事業に計り知れない貢献をなしたコレクター/パトロン。
いたずらっ子版ジャクソン・ポロックとでも言うべきスタイルを確立したサイ・トゥオンブリーの作風は、イタリア生活の中で、ホメロスやキーツ、マラルメなどさまざまな文学テクストの引用を織り込むことで、より繊細精緻に重層化していった。ジョルジョ・アガンベンはトゥオンブリーの作品を「落下する美」と評しているが、ロラン・バルトの「何者かが到来する舞台」という形容を踏まえ、「降臨する美」と読み替えることもできるかもしれない。
最後にゴシップを一つ紹介すれば、2011年に逝去した際には、生前のトゥオンブリーの脱税容疑を理由に、イタリアの検察当局が資産の差し押さえに動いたほど、その遺産額は途方もないものだった(推定13億ドル)。